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風の国ルート 


 マオは今日もフラッと城を出て行ってはカステロへ。最近城にいないことも多くなってきました。 
国民の前に姿を現すことも少しずつ減り、国民の間からは「大丈夫なのか」という不安の声もあがり始め、国自体がグラつき
始めています。 
 マオには母がいません。幼い頃の母の記憶は遠く、もうほとんど覚えていないのです。唯一の手がかりは青い砂の入った小瓶。母が大切にしていたものだったようです。マオは今でも持ち歩き、眺めては思いにふけているのでした。 
 寂しさや面影、それを追ってばかりいるため、いつも心に穴が空いているマオ。それをごまかすようにいつしかカイとも関係をもつようになっていきました。そんな心の穴に気づいたのはルビカ。 
「マオ最近おかしくねー?どうしたんだよ。」 
「…べっつに。俺が大人の男になって雰囲気が変わっただけじゃん?」 
「まーたそういうこと言う。なんかあったら話せよ。な?」 
マオはルビカを鬱陶しく思っていました。心を見透かされる存在、必要以上に構ってくる存在。本当はそんな存在に全てを打
ち明けてしまえば楽なのに。

 

 


 ある日、いつも通り自分を気にかけてくるルビカを、マオは壁に押しつけます。 
「な、何すんだ!やめろ!!」 
「いい加減自覚しろよ。お前はか弱い女。男には敵わねーんだよ。」 
「いつも言ってるだろ。男とか女とか、お前には関係あってもアタシにはない。どうでもいいんだよそんなこと。…もう、手離せよ。」 
「バカな女。今に思い知らせてやる。」 
「?!」 
不意のキスー。 
大切に思っていた友達からの、突然の乱暴な行為。ルビカは反射的にポロポロと涙を流します。 
「マ、マオ……」 
「いい顔じゃん。いくら言ってもわからない奴には、体で教えてやんねーとな。」 
「くっ……くそ………。アタシは負けない。絶対…絶対に…負けないからなっ……。」  

 

 


 

 そしてもう一人、マオを想う相手がいます。テマリは、許嫁として誰よりもマオを大切に思っていました。 
ルビカとテマリは、リスを通じて密かに文通をしています。最初はお互い相手を知りませんでしたが、回数を重ねていく内に認
識していくようになります。お互い情報共有をし合って、マオのことを別の角度から見守っていました。 
『ルビカさんへ 
今日も朝日が心地良いです。いかがお過ごしでしょうか。マオ様は元気にされていますか?寒くなって参りましたので近々外
套を贈ろうと思っております。』 
テマリから手紙が来る度、マオとの出来事を思い出し、胸を痛めるルビカ。 
「キキキィ?」 
手紙を持ってきたリスは、ルビカのうかない表情を見て心配しています。 
「ああ、ごめんごめん。そんな顔しないで。・・・・・・なんでもわかる、わかってやりたいって思ってたけど…ダメなこともあるんだな。アタシは…あいつがわからないよ。」  


 ある晩、テマリの使用人の一人が、何者かによって連れ去られます。海の向こうの遠い国へ。 
マオはその事件を無視する気でいましたが、その女性が自分と同じ青い砂の、砂時計を持っていると知ります。 
いてもたってもいられず、マオは海外へその女性を取り戻しにいく決断をします。 
その晩、カステロで偶然出くわすルビカとマオ。 
「どうした……なんていう……顔してるんだマオ。」 
「ハッ。また今日もお節介ですか。懲りないですね~王女様は。」 
冗談を言いつつも真剣な表情のマオに、ルビカは、テマリから聞いた砂時計の女性のことを思い出します。 
「決意を…固めたんだな。お前の中で、絶対に揺るぎない決意が…。」 
「やっと掴みかけたものを、諦めたくないんだよ。」 
その声色から何かを悟ったルビカは、声を荒げます。 
「行くな!!!!」 
マオはルビカの視線までしゃがみ、優しく頭を撫でます。 
「ごめんな、王女様。」  


 その夜、マオは海の向こうへと旅立ちます。…が、その女性が自ら命を絶ったことを、海外の土地で聞くことになります。 
連れ去った犯人は外国人で、密かにその女性と連絡を取っている男性で、その後、消息を絶ったとのこと。 
女性は、無理に連れ去られ、命の危機を感じたその女性は、自分で自分の人生を終わらせようとしたのでした。 
ポケットに入っていた砂時計には『私の一生の宝物』と文字が刻んでありました。  
帰国し、ルビカと接触します。 
「よく頑張ったな。マオ。」 
「うわぁああぁああぁ!!!!」 
「今まで気づいてあげられなくてごめん。辛かったな。ごめん、ごめんな…。」 
マオはルビカの胸で大声をあげて泣くのでした。  
国民に興味のなかったマオが、海外まで女性を取り返しにいったという事実が、今までグラついていた風の国に明かりを灯
すこととなります。

 

 

 


 亡くなった女性…マオの母親のお墓は、カステロに建てられました。マオが足を運ぶと、ちょうどテマリが花を供えていました。 
「マオ様のお母様、すごく立派な方でした。他の使用人にも信頼されていて……本当に………ありがとう、ございました。」 
マオはテマリをギュッと抱きしめます。その力強さに、テマリはマオの様々な気持ちを知るのでした。  
「ひどいことをたくさんして、ごめん。ごめん………。」  


 その後、マオは王子として国に積極的に働きかけるようになります。 
もう一件、区切りをつけたい案件を、マオは忘れてはいませんでした。 
とある晩、カステロに呼び出されたカイ。いつもの部屋へ。マオは、優しくカイをベッドに押し倒します。 
「大変だったな。」 
「カイ……今日が最後だ。最高によくしてやる。」 
「気持ち悪いこと言うな。勝手にやって、勝手にやめて、ふざけ…」 
「ありがとう、カイ。」  


 マオが国に向き合う姿を、ルビカは隣の国から見守り、時には手助けし、その間もテマリと文通を続けていました。 
『ルビカさんへ。 
実は私、結婚が決まりました。お相手は、この国を支える立派なお医者様です。 
驚かれましたか?…そうですね。たくさん悩みました。悩んで悩んで、やっと出した結論です。私は今でもあの人が好きです。
が、あの人の邪魔をしたくない。やっと、ご自身の瞳に誰かを映し始めているのです。それは私じゃない。だから……。』  
手紙を書き終えたテマリは、月を見ながら、凛とした表情をしていました。 
「これで、よかったのですよね。」 
「キキキ…キィキィ…キキキ!」 
「そうですよね……ごめんなさい、リスさん。マオ様……大好きでした。大好き……必ず、幸せになってくださいね。」 
テマリはその場でしゃがみ込み、しとしとと涙するのでした。

 

 

 


 テマリの手紙を受け取ったルビカは、マオが瞳の中に何色を映したのか、誰を映しているのか、見当がつかず…それよりテマ
リとのことが気になり、すぐにマオに接触しにいきます。 
「テマリ……結婚するんだって?」 
「なんでお前がアイツのこと知ってんだよ。」 
「んなこと今はどうだっていいんだよ!!……お前……」 
「ハハッ。マジな顔すんなよ。……よかったよ。やっと幸せを掴もうとしてんだ。俺では……できなかったから。」 
「…………アタシは、お前が心配だ。お節介って言われても何て言われても、アタシはやっぱりお前が気になって仕方ないよ。」 
「…は……ない…」 
「え?」 
「今度は、失敗しない。俺はもう、逃げないから。ルビカ」 
マオの熱いまなざしから、ルビカは目を逸らすことができませんでした。   

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